蒙古斑革命 山口小夜子×高木由利子

第14回 美のドラマを瞬間に凝縮させる写真家
下村一喜

Words From 山口小夜子

下村さんは現在パリにお住まいです。パリ・コレクションで訪れたときなど一緒に美術館を巡ったり、たいへん親しくさせていただいております。

これまで撮影のお仕事でも何度もご一緒させていただいてきましたが、打ち合わせと称して話し込むこともしばしばあります。ファッション、文学、アート、映画、あらゆる知識を豊富にお持ちで、とにかく話題がつきません。撮影現場でも次々とテンポよく繰り出される冗談まじりの軽妙なトークで周りをなごませ、笑いのあがる和やかな空気を一瞬にして作り出してしまいます。

けれどカメラを手にした瞬間に一転、まるで別人のように火花が飛び散るかのような迫力で挑まれます。被写体や自分自身の中にある映像との対話だけに、集中されているのでしょう。求める瞬間を捉えるときの集中力と、パンっと切る踏ん切りの良さ。とても男性的な力強さを感じます。

そうして創りあげられる写真は、ドラマティックな世界。数々の雑誌の方が一緒にお仕事をしたいとおっしゃられているのもうなづけます。お話を伺って、子供の頃から映画が好きで、セルジュ・リュタンスが好きで、と育まれてきた美意識が、下村さん独自の美の世界を創りあげているのだとわかりました。そうして育まれてきた高い美意識で、これからも夢のある世界に私たちを誘ってください。

The Salvage Project of 蒙古斑革命

2007年に他界したファッションモデル/パフォーマーの山口小夜子と写真家の高木由利子が2005年から2007年にかけて行っていたプロジェクト『蒙古斑革命』の失われていたWebサイトのサルベージを開始します。

『蒙古斑革命』は、ファッションモデルとしてかつて ”日本” のアイコンであった山口小夜子と世界を飛び廻り”人の存在”を撮り続ける高木由利子が、あらためて日本に生きる人々の美意識を探り、そのアイデンティティに向き合うべく、2人の目に留まった総勢32名の”エッジな人々”へインタビューを行ったプロジェクトです。

その様子は、 雑誌「ソトコト」で高木由利子による写真とグラフィックをメインにインタビューの抜粋を掲載し、Webサイトでインタビュー全文を公開するという形でおよそ2年間にわたり連載を行っていました。

連載が終了した2007年、山口小夜子が急逝。
そして、奇しくもそれとほぼ時を同じくし、サーバーダウンによりWebサイトの全データが消失、また、ローカルデータやインタビュー音声なども消失してしまい、『蒙古斑革命』の記録を閲覧することができなくなってしまいました。

山口小夜子急逝から10年経過した2017年、『蒙古斑革命』を当時愛読し、多くの影響を受けたという星野圭一の呼びかけに始まり、高木由利子、プロジェクト発足当時から影で支えていた現代美術家/ホーメイ歌手の山川冬樹、山口小夜子と舞・朗読・映像によるパフォーマンス活動を共にした演出家の生西康典、エンジニアの篠原敏蔵らが集まり、『蒙古斑革命』復活プロジェクトを発足。高木由利子が所蔵していたインタビューの様子を撮影した映像や誌面原稿から記録を起こし直し、新たに再構築することで『蒙古斑革命』Webサイトの復活にたどり着きました。(データサルベージ作業は、現在も続いており32名分のインタビューは順次公開していきます。)

第1回目の公開は、山口小夜子生誕の日にあたる9月19日。全32名へのインタビューを終え、連載の最後に行われた山口小夜子と高木由利子の「終わらない旅」と題された対談からスタートします。この対談は『蒙古斑革命』立ち上げの経緯やその想いを語った内容となっており、また、プロジェクトのステートメントとしても受け取ることができます。「終わらない旅」と題されているとおり、連載終了後も『蒙古斑革命』の精神が多くのひとに拡がっていくことを願った山口小夜子と高木由利子の意志を受け継ぐところからサルベージを開始します。

10年の時を経てふたたび『蒙古斑革命』が蘇ることで、山口小夜子と高木由利子の企みと想いが、現代の多くのひとと共鳴し「旅の続き」がはじまることを願っています。

2017年9月19日
「蒙古斑革命」復活プロジェクト 一同