第13回 南アから中国へ陸路一人旅、世界にツッコミを入れる旅行作家 作者(さくら剛)

Words from 山口小夜子

昔から旅人はいて、旅への情熱を喚起してくれるすばらしい表現者もたくさんいました。最近の日本人なら、藤原新也さん、沢木耕太郎さん。毛色は違うかもしれませんが、TVというメディアで活躍した猿岩石もそうかもしれません。そんな中、旅行記の新しい形が出てきたなと思ったのが、インターネットというメディアを通して発表された作者さんの旅行記を読んでのことです。

作者さんとはインターネット上の某コミュニティで知り合ったのですが、その旅行記を読んだときにはあまりの面白さに何人もの友人に「見て、見て」と伝えてまわったほど。サイト上ではアフリカのスーダンまでの行程がまとまって記されていますが、それとは別に行く先々でインターネットへの接続拠点を見つけて、その場で旅の報告をメルマガの形でも送ってきてくれました。作者さんの足跡を辿りながら、今どこにいて、何をしていて、どんなことに困っているのかを知ることが出来る。これまでなら何ヶ月後、何年後かに届くはずの旅の話を数日のタイムラグはあれ、ほぼリアル・タイムで読むことができたのです。

「インターネットとゲームが好きなちょっと引きこもり気味」な今どきの日本の青年がいきなり南アフリカから陸路で中国を目指すという苛酷な一人旅に出る、というのも驚きです。その潔癖性で繊細なスタンスは崩さないまま、郷に入っては郷に従えを頑なに拒み、行く先々での体験をありのままに受け止め、次々と訪れるカルチャー・ショックやアクシデントを記した文章は、ほんとうに面白い。書かれる内容ももちろんのこと、文字の大小や配列で遊んだり人の心理をよく考え、モニタ上で展開される視覚効果を活かしたダイナミックな表現もその面白さを倍増させてくれています。旅行記の中で「ぅわああああああん(泣)」といつも号泣されていたのを見て、じつは小柄な姿を想像していたのですが、実際にお目にかかってみると背の高い好青年。一時期お笑い芸人を目指していたことがあると伺って、あの笑いのセンスと文章力はなるほど、と思いました。

今年初めに長い旅を終えて日本に戻られてからも、相変わらず家とインターネットに引きこもっているとおっしゃっていましたが、すでに社会へと繋がる窓は開かれていると感じます。そうして自分の脆弱性に対してコンプレックスを持っている多くの人を勇気づけたのではないかと思います。

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