第4回 遺跡発掘もする舞台衣装デザイナー 田中洋介

Words from 山口小夜子

田中さんは私の仕事仲間でもありますが、優しさと愛をもって仕事を進めていく方です。まだ20代半ばの若いデザイナーですが、ほんとうに素晴らしい仕事をされます。創作においての感覚の素晴らしさはもちろん、それと同時に、創作に至るのに必要とされる細かい連絡事項の確認や、物事の解釈、人を動かす力など、衣装デザインに必要な総合力を併せ持っているのです。

舞台衣装をつくるのには、ふつうの創作よりもたくさんの人が関わります。服を制作する側のスタッフにも、生地や型紙、縫製などいろんな分野の方々が関わり、それを動かしていかなくてはいけません。また舞台であればさらに、演出家の意図を汲み、物語の内容に基づいて、舞台美術や照明と合わせ、俳優さんたちを活かし、なおかつそこで衣装がうるさくもならず舞台の世界を衣装で表現する、ということも要求されます。舞台の世界で衣装をつくるということは、単に服をデザインする以上の、複雑な人間関係の狭間で混乱を起こさずに物事を運び、制限された中で、最大限の効果をあげるための、総合的な能力が必要なのです。

田中さんは、自分でデザインし服を縫う一方で、全体のバランスにたえず目を配られます。小さな確認もおろそかにせず、瞬時瞬時に的確な判断をくだし、スムースに進行させる。それでいて、ピリピリせずに柔らかい雰囲気で現場を落ち着かせる。なおかつその中で自分の世界観を衣装の中できちんと表現する。これは単に努力だけではなかなかできない、一種の才能だと私は思います。

なによりも、そのスポンジのような吸収力と、先入観がないことには驚かされます。物事とはこうだから、と決めつける先入観が、いい意味で田中さんにはないのです。先入観がないということは、物事の本質がちゃんと見えていること。本質がわかっているから、これはルールにしかすぎない、ということもわかって、アレンジすることも、崩すこともできるのです。田中さんはそれが無意識のうちにできている。だから無理がない。これから様々な経験を積まれていく中で、その物事の本質に向かう素直で透明な部分はずっと持ち続けて欲しいと願っています。

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