第7回 粋で洒落ていてアヴァンギャルド、半世紀を駆け抜けた映画監督 鈴木清順

Words from 山口小夜子

鈴木清順さんとは『チゴイネルワイゼン』が公開された直後に雑誌で対談したのが、直接お目にかかった最初のことでした。その後『ピストルオペラ』に出演させていただいたり、仕事をされる清順さんの後ろ姿をこれまで拝見できたことは幸運なことでした。

昨年で監督デビュー50年になられたそうですが、これまでに撮られたどの映画を観ても、その感覚のアヴァンギャルドさ、感覚の若さには驚かされます。それはまた作品の上だけでなく、実際に現場で指揮を執られるご自身もそうなのです。

監督というのはほんとうに大変なお仕事であると思います。現場で演出されるときも瞬時に決断していかなくてはいけないことが多い。「監督、どうしますか」と聞かれて「こうしよう」と決断をくだすとき、あるいは「そこで台詞を言ってみて」と指示を出すときの、判断の素早さ、的確さ、視点のシャープさ。その指示を実現しようと走り回る、若いスタッフの熱意と熱気もすばらしい。けれど、その中の誰よりも若さに溢れてエネルギッシュでいらっしゃるのが清順さんだったりするのです。

どうしてこれほどアヴァンギャルドで瑞々しい感覚をお持ちなのだろう、とその後ろ姿を見ていつも不思議に思っております。たとえば『殺しの烙印』映画には炊きたてのご飯の匂いが好きな殺し屋が登場しますが、あの印象的なシーンはじつは電気釜のタイアップから生まれたそうです。そうしたことさえも生かし切りるのが、清順さんのすごさです。しかもそれが時代を象徴し、別の意味さえ含むものにもなっている。ご飯の匂いをかぐ殺し屋のシュールな姿から、前の戦争で白いご飯をお腹いっぱい食べたいと願う人たちが大勢いたことさえも考えさせられてしまう。楽しい中に、物事の本質を突くような深さがあるのです。

今回、改めてお話を伺う機会を得ましたが、やはり面白い語り口の中に、さりげなく深い一言が漏らされる。楽しいひとときを過ごしながら、心の居住まいを正したくなる大切なことに気づかせてくださいました。

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