第5回 言葉と音の表現の新たな次元を切り拓く”ラッパー” A.K.I.

Words from 山口小夜子

A.K.I.とは今、一緒にクラブなどでライブ・パフォーマンスを行っています。文学や哲学のさまざまなテキストを題材にして、その世界を私たちなりに解釈し、言葉と音楽を交えて表現するちょっと実験的なパフォーマンスです。テキストを読み上げる声にエフェクターをかけたり、パソコンで読ませたりなどしながら、そこにノイズや音楽、歌を交えたり。私自身、模索しながら少しずつ進んでいるところです。

始めてA.K.I.と出会ったのは、「エキソニモ(EXONEMO)」という二人組のメディア・アーティストのライブ・パフォーマンスを見に行ったときのことでした。パフォーマンスの途中でA.K.I.が登場し、モーニング娘。の『I WISH』という曲をアカペラで歌ったんです。「あ、変わってて面白い」と思ったのですが、その印象は「最近作ったんだ」と本人からもらったCDを聴いてさらに深まりました。高校生の頃からラッパーをしていた、という彼自身のことは、そのときはまったく知らなかったのですが、そのCDの中には、言葉をモチーフにしたA.K.I.独自の世界ーー解体された言葉と音の独自な世界ーーがあったのです。

別の機会に見に行ったライブでは、コラボレーション作品で、黒い舞台で観客に背中を向け、ただ椅子に座って机の上のコンピュータに向かい、黙々と音楽を流している、というものでした。その途中に「ちょっと水をくれる?」とでもいうような、雑談もしていて、まるで日常の行為のような場面が展開される。それは現在の都会に暮らすごくごく一般的な男の子たちの、ある瞬間のリアルな日常を切り取ったものであると同時に、それがいきなり大友克洋のマンガ世界へと繋がるトンネルになだれ込んでしまうような、不思議な感覚のものでした。

私自身、ちょうど言葉と身体の動きや、さらに映像と音を融合させて、日常の中に転がっているものを一つの世界観にまとめたパフォーマンスをしていたこともあって、そうした彼の表現に興味を抱いたわけです。「今度、一緒に何かできたらいいね」と話が弾み、今のユニット結成へと至ります。A.K.I.の音の使い方、言葉の切り取り方、そして本質へと向かう感覚ーーそれは、ラップというジャンルを超えてアートの文脈へと突き抜けていくようで、今、非常に面白いと思っているアーティストの一人なのです。

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